ネット経由でデザイン依頼
ローカルなほど恩恵を感じるネットやSNSの力
ある日のことである。
私たちJItoZU Webの『お問い合わせ』に一通のお手紙が来た。
なんでも、
私たちが創った『和酒女子ガイドブック』を見てくれた方が、
デザインを気に入ってくれて、仕事をお願いしたい!というものだった。
ひとつの仕事の成果が、次の仕事へとつながっていく。
こんなうれしいことはない。
作り手冥利につく、といったところだろうか。
しかも、移住して間もない頃だったので、
このすてきな流れは、素直にとてもうれしかった。
依頼者その方こそ、まつお酒店さんだった。
“まつお酒店”は地元に愛される老舗の酒屋だ。
店内には、松尾さんの達筆なことばとともに地酒が並ぶ。
これは、楽しいお仕事になるぞと直感した。
日本酒好きが講じて、ここ十和田の酒蔵である“鳩正宗”の蔵人として酒造りに携わりながら、
地元の酒のデザインができるなんて、こんなうれしいことはない。
当然二つ返事で、依頼をお受けした。
あらためて、インターネットのありがたさを感じた今日このごろなのでした。
女性をターゲットにした新酒のデザイン
依頼を受けたお酒は、まつお酒店が地元の酒蔵“鳩正宗”が開発した
『女性をターゲット』にした純米酒だった。
そして、それは、
・りんご酸酵母を使ったお酒である(ことで口当たりがさわやかでジューシー)
・アルコールが12度で低い(一般的には15度前後)
といった特長をもつ純米酒であった。
まずは、リサーチ。
まつお酒店主催の“試飲会”が行われた。
パネラーは“和酒女子”のみなさんであった。
実際に飲んでほしい層の方の反応を見るのがやっぱり一番だ。
当日は、アンケートを実施。
飲んだ感想と飲んだ時に連想するコト、モノをあげていただいた。
人というのはつくづく面白い。
同じモノを飲んでいるのに、受け取り方や感じ方が、
多種多様、千差万別、十人十色…
一方で、体系化できるものもあり、
それらを“すくいあげて” “結んでいく”のが、
ひとつのデザインの面白さであったりもする。
地元のカフェ『ハピタノ』さんで、行われたこの試飲会では、
おいしい食事のもと、楽しい意見交換が行われ、
その模様が新聞各社にも掲載されたのだった。
▼こちらで新聞記事などが見れます
まつお酒店の女性向け日本酒『一りん』をデザインしました « JItoZU[コピーライト&デザインユニット]
5つのネーミング案を提案
ぴんときたのは『一りん』
さて、和酒女子のみなさんに協力していただいたアンケートを元に
早速ネーミング案をつくることにした。
体系化した結果、5つの案ができた。
・『一りん』
・『雪の果実(かじつ)』
・『白雪姫』
・『さら』
・『白うさぎ』
このネーミング案を思案するにあたって、
私たちが、考慮したポイント(軸)が4つあった、
それは、
[りんごらしさ]
[青森・十和田らしさ]
[女性らしさ]
[男性購入時の抵抗感]
だった。
ここで、見落としがちなのが、4つめの[男性購入時の抵抗感]なのです。
そもそも、日本酒を買い求めている日常のターゲットは“男性”が多い。
その男性を振り落とすような事はしないのが得策なのである。
一見“女性らしさ”と相反するように感じる事ですが、
『男性でも買いたくなる。』こと。
このさじ加減こそが、クリアするハードルなのだと思ったのでした。
さて、このネーミング案の中で、勝利を勝ち取ったのは…
『一りん』でした。
じつは、この5案中、3案に共通することがありました。
気づいた人もいると思いますが、
それは…
『雪』です。
地元らしさを出すためのモチーフとして選んだ『雪』だったのですが、
面白いことに、まつお酒店さんがイメージする『雪』の印象と、
私たちが感じる『雪』の印象とには、
ものすごい隔たりが、天地ほどの差があったのでした。
地元で『雪』とともに暮らす人たちにとっては、
『雪』は、雪かきなどの生活の邪魔者としてのイメージが強かったのです。
あの『しんしん』と『静寂』な『きらきら輝く』『清楚』なまでのイメージとは、
かけ離れたモノでした。
当然、“却下”
残る2案のうち、『一りん』に脚光が当たりました。
とはいえ、『一りん』は、わたしたちにとっての第一候補でもありました。
『一りん』のコンセプトは以下の通りです。
〈意味〉
『一輪の花』と『りんご』を組み合わせた名。
一輪の花を購入するように、気軽に買ってほしい。
また一輪の花をプレゼントするかのように、誰かへ贈ってほしい。という願いを込めた。
〈響き〉
読んだ時の響きも、どこか清潔で、すがすがしい
印象を与えられ、のんだ時の印象と適合する。
〈見た目〉
『りん』とひらく(ひらがな表記にする)ことで、
りんごらしさのイメージへと結びつける。
〈ねらい〉
バレンタインやバースデイ、母の日、パーティなどの
行事のマストアイテムになるような商品にしたい。
気づいてもらえるパッケージデザイン!
さて、ようやくデザインへと駒を進める段階へ。
ネーミングが決定したことで、よりアイデアのピントを絞っていく作業に入る。
500ミリリットルという少なめの量も、
“買い求めやすさ”を考慮してるのだろうと思った。
もちろんこれも、デザインの条件になる。
依頼を受けた当初、まずやりたくなかったのは、
漢字の商品名と和紙のようなデザインだった。
それは、日本酒にはありふれたデザインで、
確かにおいしそうに見えて、それはそれでいいのだが、
う〜ん、うまくいえないのだが、その手の領域にしてしまったら“埋もれる”こと必至なのだと
だから、それ以外の事をしたいなと思っていた。
そこで、考えたのが“埋もれない”ことだった。
まず“気がついて”もらうこと。そこだった。それがそのままコンセプトになった。
そして、提案したのが、これ。
瓶の向こう側に花が見えるデザイン。
提案したところ、一発で気に入っていただけた。
業界に長くおられる松尾さんも、『見た事ないね〜』とおしゃってくれた。
クライアントが気に入ってくれて、GOサインがでれば、プロジェクトも踊る。
あとは、実現可能かどうかだった。
実は、この手の“奇策”の一番の難関は、実現ができるかどうかにある。
できればジャンケンでは、グー・チョキ・パー以外を出したい
デザイナーに限らず、作り手なら誰しも、
そう思ってるのではないだろうか?
相手の予想の範囲外を提案したい。と。
そしてそれを出した時の、反応を伺うのも、楽しみだったりする。
今回は、素敵な結果だった。
問題は、実現あるのみ。
普通ならば、コスト削減が必須の昨今、
『安い・速い・うまい』の3拍子がそろったネット印刷で、
ちょちょいとデータ入稿して納品すればよいのかもしれない。
しかしながら、今回は、そううまくいかない。
やったことがないので、ノウハウがないのだ。
そうなると、地元で、手と足を一緒に動かしてくれるパートナーが必要になってくる。
これが…見つかるものですね。
正直、すごいと思った。
日頃、まつお酒店さんがご好意にされている地元の印刷所が、ひと肌もふた肌も脱いでくれました。
その名も“日刊東北印刷所”
佐藤さんに相談に行くと、『おもしろいですね、やってみましょう』と。
本当に力づよい。ものでした。
東京で仕事をしていた時は、やはり、技術者の人と直接会って、話して。
というやりとりを大切にしていたので、
ほぼ見ず知らずの土地で、こんなにも早くインクの匂いをかげるとは想いもよりませんでした。
それから、テストを何度かしていただいて…
完成しました。
最終的には、『シール』になりました。
瓶の向こう側に絵をもってくるには、シールの粘着面側に、
絵柄が印刷できることが、必須条件でした。
それをクリアできる技術力があるかどうか。
そして、コスト面で、予算内でクリアできるかどうか。
最終的には、どちらも見事クリアすることができました。
ネットワークって本当に大切ですね。
佐藤さん、本当にありがとうございました。
さて、あとは、“売り切れ御礼”を願うべしです!
みなさん、ごひいきに。
⌘
おまけ
デザイン解説
デザインで一番難しかったのは、絵柄の調整でした。
というのも、瓶の側面にラベルを単純に貼った場合に比べて、
瓶の中にお酒(水分)が入った状態ごしにラベルを透かすと、
絵柄が天地方向に平たく縮んでしまうのです。
水がレンズの役割をするためですね。
ですので、解消するには、あらかじめデザインを天地方向に150%程度伸ばしておく必要があります。
こういうのも、実際にやってみないと分からないことですね。
試行錯誤、大切です。
また、上部にあるナナメ掛けの『肩かけラベル』については、
あえて、正面に貼ることにしました。
手前と奥とで差異を付けることで、より奥行き効果を出すためですね。
楽しいお仕事でした。
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まつお酒店
〒034-0093 青森県十和田市西十二番町7-32
TEL:0176-23-3307